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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)108号 判決 1992年11月26日

奈良県奈良市登美ケ丘5丁目1番13号

原告

黒田重治

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

中西一友

松村貞男

田中靖紘

田辺秀三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和63年審判第17728号事件について平成3年3月22日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和54年3月20日、特許庁に対し、名称を「軟質合成樹脂製耐圧ホース」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願したところ、昭和63年7月27日、拒絶査定を受けたので、同年10月13日、特許庁に対してこの拒絶査定に対する審判を請求した。

特許庁は同請求を、昭和63年審判第17728号事件として審理したが、平成3年3月22日、「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした。

2  本願発明の要旨

内外二層の軟質合成樹脂製耐圧ホースであって、軟質内層管と軟質外層管との間に介装した菱目状補強材が内層管外周面及び外層管内周面の夫々にくい込んだ状態で、内層管外周面と外層管内周面とをこれら内外層管により前記補強材の菱目を埋めて一体化せしめて成る軟質合成樹脂製耐圧ホース(別紙図面1参照)。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、特公昭36-9591号公報(以下「引用例」という。)には、軟質の熱可塑性合成樹脂管を適長に切断したものの中に空気その他圧力媒体を充填封緘したものを内管となし、これに各種繊維の筒ネットを套嵌したものをヒーター内に通し、その内管の表面を加熱軟化させながら押出成形機のヘッドを通し、同ヘッドのダイスを通るときにその外周に、ダイスから成形して押出される別の合成樹脂管を套嵌合着して三層一体となし、次いで冷却して軟質合成樹脂合着耐圧ホース製品となすこと、及び外周に軟質合成樹脂を套嵌合着すること、及び別紙図面2の第2図のような真田編の筒ネット芯又は別紙図面2の第4図のような粗目に編んだ筒ネット芯2を、その全長に亘って套嵌すること、並びに未だ軟化状態にある内外両管1、3を一体的に合着しながら冷却することが記載されている(別紙図面2参照)。

(3)  本願発明と引用例に記載のものとを比較すると、両者は、軟質内層管、軟質外層管および該内外層管の間にネットからなる補強材を介装せしめてなる内外二層の軟質合成樹脂製耐圧ホースである点で一致し、本願発明は<1>前記補強材が菱目状である点(以下「相違点1」という。)、および<2>介装した該補強材が内層管外周面および外層管内周面にくい込んだ状態で存在し、内層管外周面と外層管内周面とをこれら内外層管により補強材の菱目を埋めて一体化したものであるのに対し、引用例には、この点について明記されていない点(以下「相違点2」という。)で一応相違するものである。

(4)  上記相違点について検討する。

<1> 相違点1について

別紙の第2図に示された真田編の筒ネットを別紙の第4図に示されたように粗目に編めば菱目状を呈することは自明であり、この点に相違は認められない。

<2> 相違点2について

前記のように、(イ)引用例に記載の圧力ホースは、本願発明と同様内外二層いずれも軟質合成樹脂からなるものであり、(ロ)この樹脂の特性(軟質)を考慮して前記引用例の製法をみれば、軟質内層管と軟質外層管との間に介装した筒ネットは、内層管の中に圧力媒体を封入せしめ、かつ、その外周に菱目状筒ネットを套嵌せしめてなる内層管を加熱する工程では、軟化した内層管表面内にくい込まれた状態となること、次いで、この軟化した内層管に対して、軟化した状態の外層管を一体的に合着する工程においては、外層管表面にもくい込まれた状態となること、かつ、内外層が軟化した状態で合着せしめてなることにより介装してなる筒ネットの菱目は、内外層管により埋められた状態となることの何れも明らかである。

<3> してみれば、引用例に記載のものにおいても本願発明と同様の構造状態を形成しているものと解するのが相当であり、前記相違点に実質的に差異があるものとすることはできない。

(5)  したがって、本願発明は、前記引用例に記載された発明と同一であるから、特許法29条1項に該当し特許を受けることができない。

4  取消事由

(1)  審決の理由の要点(1)ないし(3)、(4)の<1>は認める。同<2>のうち(イ)は認め、(ロ)は否認する。但し、引用例記載の製法において、筒ネットが軟質内層管と軟質外層管との間に介装されること、内層管の中に圧力媒体が封入されること、及び、軟化した状態の外層管を一体的に合着する工程においては、筒ネットが外層管表面にくい込まれた状態となることは認める。同<3>は否認する。同(5)は否認する。

(2)  審決には、相違点2についての判断を誤った違法があり、取り消されるべきである。

<1> 審決は、審決の理由の要点(4)<2>(ロ)において、引用例に記載の圧力ホースはその外周に菱目状筒ネットを套嵌せしめてなる内層管を加熱する工程では、菱目状筒ネットが「軟化した内層管表面内にくい込まれた状態となること」と認定しているが、引用例には、菱目状筒ネットがそのような状態となる旨の記載はなく、「内層管の表面を加熱軟化させ乍ら押出成形機械のヘッドを通し」との記載があるだけである。

審決は、同(ロ)において、この軟化した内層管に対して、軟化した状態の外層管を一体的に合着する工程においては、菱目状筒ネットが外層管表面にもくい込まれた状態となると認定しているが、前述したように内層管が軟化して菱目状筒ネットが内層管表面内にくい込む状態がないから、菱目状筒ネットが「外層管表面にもくい込まれた状態」があるわけがなく、引用例の記載からして、「外層管表面がくい込み状態となる」にすぎない。

また、同(ロ)の内外層が軟化した状態で合着せしめてなることにより介装してなる筒ネットの菱目は、内外層管により埋められた状態となるとの認定は根拠のないものであることは既に述べたところから明らかである。

<2> 本願発明の特徴は、内外二層の軟質合成樹脂製耐圧ホースであって、内層管と外層管との間に介装した菱目状筒ネットが「内層管外周面及び外層管内周面の夫々にくい込んだ状態で、菱目を埋めて一体化せしめる」という点にあり、その効果は、「菱目状筒ネットが、内外層管に夫々くい込んだ状態で、これらの内外層管を一体化しているので、耐圧ホース内部に高圧が負荷された場合にも、内外層管の境界部でズレが生じることは少なくなり、両者間に剥離が生じることを防止することができる。」という点にある。

他方、引用例には、上記と同様の特徴を持つという記載はないのに、審決は、前述のとおり、引用例の記載を誤認し、その結果「引用例に記載のものにおいても本願発明と同様の構造状態を形成しているものと解するのが相当であり、前記相違点に実質的に差異があるものとすることはできない。」と誤って判断したものである。

(3)  被告は引用例について「その内層管の外表面を加熱軟化させる場合、軟質内層管が圧力媒体によって外方に膨張することにより、菱目状補強材の内周面が軟化した内層管の外表面にくい込まれた状態になることは開示されている。」と主張するが、かかる主張は理由がない。

<1> 引用例の圧力媒体について

引用例の特許請求の範囲には「圧力媒体を充填封緘したものを内管となし、」との記載があるが、内層管に一定した圧力媒体を充填封緘する目的は、引用例の発明の詳細な説明の記載に照らせば、内管の断面形を可及的一定に保形し、内管の外周に別の合成樹脂外管を被着せしめる際、その成形圧力(押出圧力)に対応させるためのものであって、内管の変形、変質すなわち膨張を期待したものではない。換言すれば、充填封緘されるものは膨張を必要としない圧力媒体である。

したがって、引用例には「軟質内層管が圧力媒体によって外方に膨張することになる」との解釈が生まれる記載はない。

<2> 乙第1号証の圧力媒体について

同号証の考案の詳細な説明の記載に照らせば、同号証の圧力媒体は加圧しながら内側管体の膨張(変形)を目的としたものである。これに対して、引用例の圧力媒体は変形、変質を避けるためのものである。したがって、両者は全く異質のものであるから、被告主張の解釈の根拠にはならない。

<3> 引用例に記載された発明において、外管との被着直前に加熱帯を通過させて、内管の表層を軟化させるのは、外管との融合着を良好にするためである。(もし、被告が主張するように、加熱帯の通過中に内管全体が膨張するほどに軟化したならば、通過直後の外管の成形圧力によって内管の断面形状は歪曲、変形するのは自明である。)

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4の主張は争う。

2  審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

(1)  引用例の特許請求の範囲の記載中「軟質の熱可塑性合成樹脂管を適長に切断したものの中に空気その他圧力媒体を充填封緘したものを内管となし、これに各種繊維の筒ネットを套嵌したものをヒーター内に通し、その内管の表面を加熱軟化させ乍ら押出成形機のヘッドを通し」までの記載は、引用例には、引用例記載の筒ネット(本願発明の菱目状補強材に相当する。)を圧力媒体を充填した軟質内層管の外周面に套嵌したものをヒーター内に通し、その内層管の外表面を加熱軟化させる場合、軟質内層管が圧力媒体によって外方に膨張することにより、筒ネットの内周面が軟化した内層管の外表面にくい込まれた状態になることは開示されている。

このことは、本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である乙第1号証に記載されているところから明らかである。(乙第1号証に記載された圧力媒体が内管の膨張を引き起こしているものであり、一方、後述のとおり、引用例に記載された圧力媒体が内管の膨張を引き起こすものであるから、引用例に記載された圧力媒体及び乙第1号証に記載された圧力媒体は同質のものである。)すなわち、引用例の発明の詳細なる説明の記載に照らせば、引用例に記載された発明において、予め空気や水などの圧力媒体を封入し、その断面形を可及的一定に保形した内層管は、加熱帯に通過させる段階で、圧力媒体の内圧が熱の影響を受けてより高められた状態となり、しかもその少なくとも表層のみが軟化した状態となるのであるから、内層管はより高められた内圧を保持しきれずに外方に膨張することになるから、引用例に記載された発明における内層管内に充填封緘した圧力媒体は、結果として、内層管の膨張を引き起こしているものということができる。

(2)  そして、内層管外表面に筒ネットを套嵌したものをヒーター内に通し、その内管の少なくとも外表面を加熱軟化させながら押出成形機のヘッドを通し、同ヘッドのダイスを通るときにその外周に、ダイスから成形して押し出される別の合成樹脂外管を套嵌合着する場合、ダイスから押し出された軟化した状態の軟質合成樹脂は、軟化した内層管の外周で、ダイスによりしごかれつつ外層管に成形されて、筒ネットの外表面を覆うことになり、筒ネットの外周面は、軟化した状態の外層管の内表面にくい込まれた状態になるのである。

(3)  また、筒ネットの内周面が軟化した内層管の外周面にくい込まれた状態になること及び筒ネットの外周面が軟化した状態の外層管の内表面にくい込まれた状態になることは、それぞれ上記(1)及び(2)に述べたとおりであるところ、内層管と外層管との間に介装した筒ネットの編目は、これら内外層管により埋められた状態となるのである。

(4)  したがって、引用例には、内外二層の軟質合成樹脂製耐圧ホースであって、軟質外層管と軟質内層管との間に介装した筒ネットが内層管外周面及び外層管内周面のそれぞれにくい込んだ状態で、内層管外周面及び外層管内周面とをこれら内外層管により前記ネットの編目を埋めて一体化せしめて成る軟質合成樹脂製耐圧ホースが記載されていることは明らかである。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いはない。

2  取消事由に対する判断

引用例の記載内容(審決の理由の要点(2))、本願発明と引用例の発明との一致点及び相違点(同(3))は当事者間に争いがない。原告は相違点2の判断を争うので以下に検討する。

(1)  成立について当事者間に争いのない甲第3号証(引用例)によれば、引用例の発明は、「軟質合成樹脂合着耐圧ホースの製造法」に関するもので、「予め製出した合成樹脂管を、押出成形機のヘッドに通してその外周に別の合成樹脂管を合着させ、肉厚を大きくした耐圧ホースを造ることは従来公知の方法である。」(第1頁左欄第24行~第26行)ところ、かかる方法においては、「使用される合成樹脂の内管そのものが、軟質のしかも中空体である為に、それを二次的に合成樹脂にて外装合着させると、そのときに内管が外力で歪曲、変形して外管との合着が不均一となり、また合着両層の間に気泡状暇疵が生じて合着が非常に悪く、加うるに内管は一旦硬化せしめた軟質可撓性のものをそのまま用いられているので、合着に時間を徒費し能率もよくない。」(第1頁左欄第26行~第33行)との問題点があるため、かかる問題を解決するために、引用例の発明の特許請求の範囲に記載されたとおりの「軟質の熱可塑性合成樹脂管を適長に切断したものの中に空気その他圧力媒体を充填封緘したものを内管となし、これに各種繊維の筒ネットを套嵌したものをヒーター内に通し、その内管の表面を加熱軟化させ乍ら押出成形機のヘッドを通し、同ヘッドのダイスを通るときにその外周に、ダイスから成形して押出される別の合成樹脂外管を套嵌合着して三層一体となし、次いで冷却して製品となす軟質合成樹脂合着耐圧ホースの製造法」からなる構成を採用したものと認められる。

そこで、相違点2に対する審決の判断のうち、原告が争う点は、引用例の発明において、その外周に筒ネット(これが本願発明の菱目状補強材に相当すること及び筒ネットが外層管内面にくい込まれた状態となることは、原告において明らかに争わないところである。)を套嵌した内管を加熱する工程で、該筒ネットが軟化した内管表面内にくい込んだ状態を呈するかどうかについてである。

被告はこれについて、引用例には、引用例記載の筒ネットを圧力媒体を充填した軟質内層管の外周面に套嵌したものをヒーター内に通し、その内層管の外表面を加熱軟化させる場合、軟質内層管が圧力媒体によって外方に膨張することにより、筒ネットの内周面が軟化した内層管の外表面にくい込まれた状態になることは開示されていると主張するので、まず、引用例の発明の加熱工程において、内管が膨張することに関する開示があるかどうかについて検討する。

前掲甲第3号証(引用例)には次の記載があることが認められる。

<1>  「併し本発明方法によると、内管の中に予じめ空気や水などの圧力媒体を封入し、その内圧にて内管の断面形を可及的一定に保形し、しかもこれを加熱して表層を軟化させてから押出成形機のヘッドに通して別の合成樹脂,外管を外周に被着せしめるので、この合着時に内管はその中の圧力媒体により大きな応力を示し、従って外管の成形圧力にて内管が歪曲、変形する欠陥を無くすると共に内管の表層が既に軟化されている為外管との融合着が非常に均一且合理的に行われ、以て耐圧性を向上された優秀なホースが比較的短時間裡に得られる。」(第1頁左欄第34行~右欄第1行)

<2>  「尚本発明方法によれば、内管1には比較的安価な合成樹脂を用い、これに優秀美麗な高級合成樹脂の外管3を套嵌合着することを容易ならしめる特徴があり、何れの場合にも均斉合着用芯型の役目を果たした圧力媒体はその封入のまま捲収或は螺旋環状に捲いて消費の時迄保形の作用をなさせることもでき、管として使用するとき一端を切開すれば容易に排除される。」(第1頁右欄第24行~第31行)

上記各記載によれば、引用例の発明においては、内管の中に予め空気や水などの圧力媒体を封入し、その内圧にて内管の断面形をできるだけ一定に保形して外管の合着時、外管の成形圧力による内管の歪曲、変形を防止し、しかもこれを加熱して表層を軟化させるたあ、外管との合着が均一に行なわれるのであって、均斉合着用芯型の役目を果たした圧力媒体は封入されたまま捲収或は螺旋環状に捲いて消費の時まで内管を保形する作用をなすことができるのであるから、圧力媒体封入時の内管の断面形は、合着後消費の時まで保形されるものと解される。他に前掲甲第3号証によるも、引用例の記載中に内管に封入された圧力媒体の果たす役割について上記以外の開示を見いだすことはできない。

そうすると、引用例の発明の加熱工程においては、内管に封入された圧力媒体が内管の保形機能を有することは明らかであるが、これに加えて内管を膨張させるものであることは、引用例の記載からは明らかでないから、結局、引用例にこの点の開示はないものというほかない。

(2)  なお、被告は、引用例に記載された発明において、予め空気や水などの圧力媒体を封入し、その断面形を可及的一定に保形した内層管は、加熱帯に通過させる段階で、圧力媒体の内圧が熱の影響を受けてより高められた状態となり、しかもその少なくとも表層のみが軟化した状態となるのであるから、内層管はより高められた内圧を保持しきれずに外方に膨張することになる旨主張する。

たしかに、引用例の発明の加熱工程においては、圧力媒体の体積増加により、内管の内圧は、上昇するものと解されるが、その時に、内管が膨張するか否かは、内管の内圧の大きさや内管の軟化状態等の諸条件に左右されるのであるが、引用例には前記のとおり内管の膨張に関する直接的な記載がないうえ、内管の膨張をもたらす諸条件に関する記載がない以上、引用例において、圧力媒体の体積増加による内管の内圧上昇と内管の膨張の因果関係を是認する開示があるものということはできない。

被告が援用する成立に争いがない乙第1号証について検討すると、同号証には「熱可塑性管体すなわち内側管体を軟化し、外方に膨張させて、内側管体を編組材料すなわち補強体内に圧入し、内側管体の外側部を補強体の内面輪郭の全体に補合させ、熱可塑性材料が補強体のすき間に進入しかっこのすき間を埋あ、また冷却によってその状態に恒久的に固定されることを特徴とする熱可塑性内側管体と編組したまたは螺旋状の外側補強体とを有する圧力ホース。」(第1頁第5行~第12行)が記載されており、さらに、該圧力ホースの製造法の説明として、「一つの実施例では、編組されたまたは螺旋状に巻かれた天然または合成繊維の補強体を周囲に施した熱可塑性内側管体を用いる。この補強体付きの内側管体に端部材を取付け、内圧(水圧または空気圧)を加える。次に、これを内側管体の外側部を軟化もしくは溶融し得る温度にセットされたオーブンに通す。内側管体には内圧がかかっているから内側管体は補強体に圧接し、また内側管体の外側部は軟化もしくは溶融しているから補強体に補合し、進入する。」(第6頁第13行~第7頁第2行)旨記載されていることが認められる。

上記によれば、前掲乙第1号証には、同号証の圧力ホースは、圧力媒体が内管の膨張を引き起こすものであることが記載されているということができるか、これに対して、前記(2)で認定したとおり、引用例の発明における圧力媒体は、内管の保形の作用をするものであることが記載されているに止まり、圧力媒体が内管を膨張させることに関する記載はないのであるから、両者を同列に論ずることは相当ではない。被告のこの点に関する主張は引用例の発明における圧力媒体と乙第1号証記載の圧力媒体が同質のものであることを前提とするものであって採用することができない。

(3)  しかしながら、引用例の発明の合着の具体的工程について、前掲甲第3号証には次の記載があることが認められる。

「内管となる所望口径の軟質ビニールパイプ1をほぼ200mに切断し、その一端を溶封、閉栓その他適宜の手段で密閉し、他端開口部から内方に圧縮空気或は水などの流体を充填して開口端を密封し、これに第2図のような真田編の筒ネット芯2又は第4図のような粗目に編んだ筒ネット芯2を、その全長に亙って套嵌し、これを第5図のように枠4に捲き取り、その一端から順次に電熱線を内装した筒状ヒーター5内に通し、その時の通過速度を、材質或は内管径の大小などで多少の相違はあるが、通常10m/secに調整し内管1の外層を合着し易すい程度に加熱軟化させ乍ら直ちに押出成形機のヘッド6に通し、同ダイス7の中心部から出るときに、ダイス7から成形して押出される塩化ビニール樹脂パイプ3で外装すると同時に、未だ軟化状態にある内外両管1、3を一体に合着し乍ら後段の水槽8に通し、冷却して製品となす。」(第1頁右欄第1行~第16行)(別紙図面2参照)

上記記載及び前記(1)の<1>の記載によれば、引用例の発明においては、その中に予め空気や水などの圧力媒体を封入することによって、圧力媒体の内圧でその断面形をできるだけ一定に保形され、その全長に亙って筒ネットを套嵌された内管を電熱線を内装した筒状ヒーター内を通過させることによって、その外層を合着し易い程度に加熱軟化した後、押出成形機のヘッドを経て同ダイスの中心部から出るときに別の軟化した軟質合成樹脂外管を外装して、未だ軟化状態にある内外両管を一体に合着するが、この合着時に内管はその中の圧力媒体により大きな応力を示す一方、内管の表層が既に軟化されているため外管との融合着が非常に均一且合理的に行われることが認められる。そして、上記合着の工程について子細に検討すると、ダイスから押し出された軟化した状態の軟質合成樹脂は、軟化した内管の外周で、ダイスによりしごかれつつ外装されて外管に成形され、内管外層の筒ネットの外表面を覆い、外管内表面は筒ネットの空隙に入り込んで、内管及び筒ネットを包み込み、さらに、上記ダイスが外管の外側からホースをしごくような形で圧力を内管に加える際、その圧力に対して、その断面形をできるだけ一定に保形するために封入された圧力媒体の内圧が拮抗し大きな応力を示すこととなり、その結果、内管の外層に套嵌された筒ネットは軟化した内層管表面内にくい込んだ状態となり、かくして、介装された筒ネットの編み目は、合着された内外層管により埋められた状態となるものと認められる(筒ネットが外層管内面にくい込まれた状態となることは、前記のとおり、原告も争わないところである。)。かかる状態は前掲甲第3号証の添付図面第3図(特に筒ネット芯2と軟質ビニールパイプ1が接する部位の形状)からも明らかである。

(4)  なお、原告の引用例の発明において、加熱帯の通過中に内管全体が膨張するほどに軟化したならば、通過直後の外管の成形圧力によって内管の断面形状は歪曲、変形するとの主張については、上記(1)で判示したように、引用例の発明の加熱工程においては、内管に封入された圧力媒体が内管の保形機能を有することは明らかであるが、これに加えて内管を膨張させるものであることは、引用例の記載からは明らかでなく、上記(3)で判示したように、通過直後の外管の成形圧力に対して、内管に封入された圧力媒体がその圧力に対して拮抗し大きな応力を示し、内管を保形する機能を果たすのであるから、内管が変形するほど軟化し膨張することはありえず、原告の主張は理由がない。

(5)  以上認定したところによれば、審決が引用例の内層管を加熱する工程では、筒ネットは軟化した内層管表面内にくい込まれた状態となると認定したことは相当であって、引用例の発明の耐圧ホースの合着工程においては、内外層が軟化した状態で合着せしめてなることにより介装してなる筒ネットの菱目は、内外層管により埋められた状態となる点について開示があると認あられるから、引用例の発明の耐圧ホースの構造と本願発明の耐圧ホースの構造とが同一であるというべきである。

したがって、引用例に記載のものにおいても、本願発明と同様の構造状態を呈しているものと解するのが相当として、相違点に実質的に差異はないとした審決の認定は正当である。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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